都会から田舎への移住に伴う意識改革(9)提案8:時計の時間でなく自然の流れに沿って生活する

都会から田舎への移住に伴う意識改革(9)
提案8:時計の時間でなく自然の流れに沿って生活する

 都会の生活では、季節による日照時間や温度の差異は、電灯とエアコンなどのテクノロジーによって均一化されているため、年間を通じて生活のペースをほとんど変えないまま、時計を基準として毎日のスケジュールが組み立てられています。

 社会全体の生産効率を考えると、このように、全ての基準を時計に集約し、年間を通じて同じペースで働くことが合理的です。特に、農林水産業などの季節の変化とともに仕事の内容が著しく変化する第一次産業に従事する人口比率が低い先進国型の社会においては、季節による変動を社会全体に反映させる必要性は小さいですから、この傾向は強化されることでしょう。
 
 しかし、普通の動物は、自然の流れの中で、それに合わせて活動リズムを変化させつつ生きていますから、人工的な時計とカレンダーに従って生きている人類は、体に多少の無理をさせつつ生活しています。田舎で長年暮らしていると、それが現代人のストレスや健康不良の一因となっているのではないかと感じられます。

 都会では、「夜、あまりよく眠れない」とおっしゃる方によく出会いますが、それも無理からぬことだと思います。都会の夜は、屋外でも本が読めるほど明るく、家の中も寝る直前まで隅々まで電灯に照らされ、しかも目の前にはテレビやコンピュータ、スマホのスクリーンが光かがやき、その中では活発な世界が24時間休みなく展開しています。自然に囲まれた田舎に住んでいても、コンピュータやスマホでの作業が多くなると、自然のペースに合わせて生活することは難しくなりますから、都会ではなおさら、電子機器で作業する時間帯には気をつけたいところです。

 田舎のファームでは、屋外で作業をすることが多いため、生活パターンが日照と天候によって大きく影響されます。一般に、雨天時や日没後にできる屋外作業は非常に限られていますから、作業の内容とペースを季節に応じて変化させ、天候と日照時間合わせて調整する必要があります。夏と冬の気候の差が極端なカリフォルニア内陸部を例にとって、季節による生活パターンの変動を見てみましょう。

 概して晴天が少なく日照時間も短い冬には、その限られた時間内に効率よくハードに働き、残りの時間は屋内でのんびりと過ごすというペースになります。また、気温が低く、重労働をしても体力の消耗が少ないので、短期決戦型のハードな仕事に向いています。しかし、雨がいつ降るかわからないために、着工から完成までに何日もかかるような土木建築作業をすることは難しく、道具や資材なども、作業が終わったら毎回全てを濡れない場所に片付けておく必要がありますから、冬には「効率が良く最後まできっちりとした仕事をする」ことが強いられます。

 一方、日照が長く雨の降らない夏には、涼しい朝と夕方の時間帯を中心に働いて、暑い午後の時間帯は、屋内や日陰でのんびり休息するパターンなります。長期を要するプロジェクトに向いていて、道具や資材をそのままにして何日間も持ち越せますし、作業可能な時間はたっぷりとあるので、ダラダラ仕事をしても大丈夫です。35〜40度の猛暑の中では、どちらにしてそれほどハードには働けないので、むしろ休みながらダラダラと働かないと、暑い夏を乗り切ることはできません。スペインや南イタリアなどでは、昼食時に飲酒をしながらランチを腹いっぱい食べて、夕方までお店や仕事を休んで「シエスタ」と呼ばれる昼寝タイムをとる習慣がありますが、北カリフォルニアの夏も、シエスタ的な長い昼休みのある生活リズムが適しています。

 このように、1年を通じて夏と冬の気候条件の差が大きな北カリフォルニアの自然環境の中で働いてみると、季節に合わせて働くペースを大きく変えることが、人体にとってごく自然な環境への適応であると感じられます。

 一般に、常夏の赤道に近い地域では、社会全体にのんびりムードが漂い、自分のペースでチンタラと働く傾向があり、高い緯度の冬が厳しい地域では、生産性効率の高い社会がきちんと組織化され、全体のペースに合わせて真面目に働く傾向が指摘されます。このような地域差は、夏と冬の差異の大きな北カリフォルニアでの生活で季節によって生活のペースが変動するのと同じく、環境への適応の結果であると思われます。

 注意深く自己観察を行うと、季節に応じた生理的な変化も感じられます。日照の長い夏には、睡眠時間が減って運動力が増えるため、体は絞られて体重は減少します。逆に、日照に短い冬には、睡眠時間が増えて運動量が減り、体重はやや増加傾向になります。

 夏は、朝5時にはすでに明るくなりつつあり、暗くなるのは夜の8時以降。朝夕は涼しくて活動に適した条件が揃っているので、早起きをし、正午からの数時間はのんびり過ごし、再び夕方から暗くなるまで活動をするのがもっとも快適なパターンです。時計を気にしないで1日を過ごすと、だいたいこのようなパターンになっていきます。

 冬には、朝7時でもまだ暗くて寒いので、外に出て活動を開始するのは朝8時ころ。夕方4時頃にはすでに薄暗くなり始めるので、道具の片付けや作業の後始末を始めて、暗くなる5時頃には屋内に戻ります。人体は、日が暮れてからある一定時間が過ぎると眠たくなる仕組みになっているようで、9時にはかなり眠くなり、シャワーやその他の就寝準備をして、10時半ころには就寝。

 本来は、このように自然の流れに従って生活のペースを変えることが良いのだと思います。さりながら、テクノロジーを活用した環境のコントロールにも利点があって、寒さや暑さ、雨や風、強い日差しや日没後の真っ暗闇などの様々な自然の脅威を緩衝し、より安定した生活環境を提供してくれます。ただし、自然環境からどの程度の距離をとるかということ関しては、バランス感覚が必要です。自然からの距離が広がれば広がるほど、自然の変動に適応する能力は低下し、生存のためにさらに自然からの距離を広げなくてはならなくというスパイラルに陥っていきます。

 田舎での生活では、このバランス感覚を養い、テクノロジーを上手に活用しながらも、人本来の生活リズムのなかで生活するように心がけたいものです。

 

 

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