人生50年の終活

 数年前、自分と同年代の知り合いのご夫婦が、悲惨な銃撃事件で亡くなりました。

 ご家族からお葬式でのハープ演奏を頼まれ、その帰り道に、妻から「あなた、自分のお葬式では、どんなことを話してもらいたい?」と尋ねられ、とっさに「話はなくていいから、みんなをファームに招待して、そこでパーティーしてもらいたい。」と答えました。理想の環境を目指して自らの手で開拓している自宅ファームで時間を過ごしてもらえれば、自分がどのような人間であったのか、何を目指して生きていたのかは自ずと明らかになると思えたからです。しかし、よく考えてみると、みなさんにファームに来ていただくために、自分が死んでいる必要はなくて、生きている古佐小がみなさんを招待し、料理を振る舞い、生演奏を提供して、一緒に楽しんでも良いわけです。
 
 この何気ない妻との会話をきっかけに、ファーム体験や宿泊など、ファームでのイベントを提供できる環境整備のために、一層の時間と労力を投資してきました。今年は数え年で50歳。いつ死んでもおかしくない区切りの年齢になり、音楽家としても悔いのない活動をしていこうと決意した矢先のコロナ騒ぎで、ファーム体験宿泊も、音楽活動も凍結状態になりました。

 人生50年。現代の平均寿命からすると短すぎると思われますが、自分にとってはリアルな数字です。

 6年前に、兄が45歳で原因不明の心臓停止で路上で亡くなり、その数週間後に高校の同級生が交通事故で逝去。それから2年ほどの間に相次いで親戚や友人が亡くなりました。人は皆いつか必ず死ぬ。しかし、自分はまだ死にたくない…。でも、なぜ、まだ死にたくないのか?どうすれば、死ぬ覚悟ができるのか?日々そのようなことを考えるようになりました。

 まだ死にたくないという理由は色々とありますが、その中でも、音楽家として培ったものを自分で抱えたまま誰にも渡さずに逝ってしまうこと、自分の理念を反映させたライフスタイルを実践していないことに対し、特に悔いが残ると感じました。そういう気持ちもあり、ここ6年間は過酷なコンサート・ツアー、毎年1枚のアルバム製作、様々な音楽家とのコラボレーション、ハープ・フェスティバルの企画運営、ワークショップの提供、新しいバンドの立ち上げ、ハープのメンテ技術の習得などに加え、持続可能ファームでの生活、ライフスタイル研究の学会発表など、収益を度外視して死ぬ前にやっておきたいことにかたっぱしから手をつけてきました。
 
 そんな中でのコロナ。

 いつまで続くかわからないコロナ渦の5月末に、芸術家としての発信を続ける手段として、東京在住の俳優、佐藤靖郎さんと一緒に「ぴおちゃんねる」を立ち上げました。コンテンツの準備は4月から始めていましたので、YouTubeビデオの製作には、およそ3ヶ月関わっています。チャンネル登録者数も視聴回数もまだまだ少なく、収益化にも程遠い状態ですので、現時点ではいわゆる底辺ユーチューバーです。

 それでも、週3本のコンテンツを精魂込めて作っていますから、かなり膨大な時間と労力をつぎ込んでいます。売れない芸術家の自己満足と馬鹿にされても、頑張っている割には視聴者の少ない「寒い」「イタい」チャンネルと揶揄されても、返す言葉もありませんが、1年間はこのチャンネルでの発信を続けるという佐藤さんと交わした決意に従ってビデオを作っていく中で、これは自分にとっての終活なんだと思えるようになりました。

 無名の自分には、マスメディアを通じて大勢のみなさんに音楽作品や思想を発信することはできません。しかし、YouTubeを通じて音楽作品と持続可能性を追求するライフスタイルの記録を残すことで、誰かが、どこかでいつか目にする機会があるかもしれないという希望を持つことができます。1年間頑張れば、150本のビデオを通じて知識や思想、音楽作品の多くの部分を記録に残せるので、これまでの半生の成果を整理し、死ぬ覚悟を固める絶好の機会となります。とは言いながら、たとえいつ死んでも良いと思える覚悟ができたとしても、できれば、あと20年くらいはジジイとしての挑戦をしながら生きていたいというのが正直なところです。

 この1年のYouTubeでのチャレンジは、いわば人生50年の終活。これまでの半生にけじめをつけて、来年から初心に戻って老年への一歩を踏み出すことにつながることを期待しています。

 

 

 

 

 

 

Leave a comment