音楽における明暗

 人間は、オクターブ、ドからソ、ドからファ、ドからミ、ミからソなど、振動数の比率がより単純な整数の比になっている二つの音からなる和音を、「澄んだ音」と感じる一方で、ドからレ、ドからシ、ミからファなど、約分して小さな整数比にならないような二つの音からなる和音を「濁った音」と感じる聴覚を与えられています。「澄んだ音」「濁った音」を区別する能力は、視覚に喩えると光と影のコントラストを捉える能力に似ていると思います。優れた絵画は、色彩と明度のコントラストの調和によって視覚印象を造形しますが、音楽では音色と和音のコントラストにより音印象の構造物を構築します。

 

 大自然の中でも、生と死、成長と衰退、進展と停滞のような相反する力が、調和のもとに運行することにより、今目の前に広がっている自然の美しさが体現されているのです。きれいな、澄んだ音だけでは、音楽の美は生み出すことができません。明と暗、澄んだ音と濁った音が、調和の中で共存することで、音楽の美も生み出されるのです。

 

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