アメリカ大統領選挙で実感するネット時代の情報収集の難しさ

 現在も決着のつかないまま進行中のアメリカ大統領選挙。おそらく多くの皆さんは、一体何がどうなっていて、どこに真実と正義があるのかわからないという印象を持っていらっしゃると思います。アメリカで現地の報道をフォローしていても、その感覚は同じです。
 アメリカのテレビ、新聞などの既存メディアは、堂々と民主党寄り、共和党寄りという立場を明確にした上でバイアスをかけて報道していますから、1つのチャンネルだけ見ていても真実はわかりません。しかし、一般人はお気に入りの局のニュースだけを見ることが多く、しかもテレビは受動的に情報を受け取る媒体ですので、見ているうちに何となくその放送局の意見に感化されてしまいます。
 それに対し、ネットでの情報収集は能動的に行われます。能動的であれば、もっと幅広く中立的な意見を拾えそうな気もするのですが、案外とそうでもありません。そもそも社会現象に興味を抱いて情報を能動的に探す場合には、その事案に関してそれなりに感情的になっていますから、情報に対して冷静で公正な判断をすることが難しくなっています。その上、ネットでは、アルゴリズムによって自分の好きな意見、同意している見解が見つかりやすくなっています。YouTubeなどの動画配信サイトやソーシャルネットワークで出会う情報には、それまでに抱いている自分の見解を強化する方向でのバイアスがかかっており、ますます反対意見や対立する見解から遠ざかってしまいます。そうやって同じ意見の身内で盛り上がっているうちに、対立する側との乖離はさらに進み、相互理解の可能性はますます小さくなります。
 このようなネットでの情報収集の落とし穴に陥らないためには、あえて自分の意見とは対立する側から発信される情報にも触れてみる必要があります。しかし、複数のニュースソースに触れるには時間と労力がかかりますから、一般人が忙しい生活の中で行うのは難しい。本来、メディアがそこまでお膳立てをして中立の立場から冷静かつ公平な報道するべきなのですが、今のメディアにそれを期待することはできません。今回の大統領選とコロナパンデミック報道では、それが露呈したのではないでしょうか。
 このようにメインストリームのメディア情報から真実が見えてきづらくなると、多くの論客がネットで自信満々に様々な見解を語る状態となり、噂話や陰謀論もSNSなどで拡散され、さらに混沌とした状況になってきます。そもそも、SNSはジャーナリズムではないので、そこに信頼性の高い情報を期待することはできません。ネットでは真実味を帯びた陰謀論も数多く目にしますが、状況の説明として説得力があったとしても、情報の裏が取れないからこそ「陰謀論」ですから、陰謀論を土台に現状認識をすることは危険です。こうなると、もはや、どうやって事実を認識すれば良いのかさっぱり分かりません。結局、自分の直感という原始的な手法を使って真実らしきものを探り出すしかないようです。
 情報が多すぎて真実が見えにくくなる。飽食であるがゆえに様々な健康問題が起こる。便利すぎる生活によって人間の基本的な生存能力すら退化する…。なんとも皮肉な時代です。

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