都会から田舎への移住に伴う意識改革 第二部:心身の健康の管理者は、あくまでも自分自身

都会から田舎への移住に伴う意識改革 第二部
提言その1:心身の健康の管理者は、あくまでも自分自身であるということを意識する。
 
 古佐小ファームでは、農業分野での自給自足だけでなく、生活に必要な物品やサービスをできるだけ持続的に自給できる「持続可能性の高いライフスタイル」を目標にして、能力開発と環境整備を行っています。そのために、まず最も重要なことは、自分自身が持続可能であるということ、つまり、活動の主体である自分自身が、健康で高い生産性を継続的に維持できる状態にあるということです。それがないことには、環境との相互関係のなかでの持続可能性の高いライフスタイルを築くことなど不可能です。
 
 ということで、最初の提言は、健康に関するものです。
 
 とにかく、健康で、元気に活動することができ、日々自分が成長し続けているという実感があれば、どこでどのように暮らしていても、生きる希望と喜びを感じることができます。逆に、健康が損なわれたら、健康の回復という急務のために活動が大きく制限されてしまいます。特に肉体系の労働の多い田舎では、長期の闘病は死活問題ともなりかねません。慢性的な疾病による医療への過度の依存がある場合も、医療サービスを受けることが難しい田舎に暮らすことには、不便さとともにリスクも伴います。
 
 仕事での生産性と効率性を得るために健康をかえりみず働きまくり、その結果病気にかかり、それを医療によって後付けで解決しようとするサイクルも、先進的な医療リソースから離れた田舎においては成り立ちません。本当は、こういうサイクルは都会でもダメなんですけどね…。
 
 田舎に暮らすにあたっては、まず、心身の健康管理の責任者は、あくまでも自分自身であるということを意識し、健康管理と健康増進の方法を積極的に学び、できるだけ医療者などの第三者に依存しないで健康を維持/増進できることを目標にすることをお勧めします。
 
 都会生活から田舎での自給自足を目指すファームでの生活へのシフト段階の数年間は、普通に生活しているだけでも毎日が学びの連続で、体力、知力、感覚、感情の能力をフル活動させることになります。そのため、人の持つ能力を総合的にバランス良く向上させる生活スタイルを自動的に実践することになりますから、これだけでも十分に健康増進の効果はあると思います。できることなら、そこからさらに踏み込んで、心身の能力を最大限に引き出す効果があると思われる身体活動、精神活動、生活習慣を取り入れ、自分自身を実験材料として実験し、自己観察によって成果を検証し、この作業を積み重ねることで、自分にとって実践可能で健康増進と能力開発の効果の高い生活メニューをカスタムメイドで構築していくという目的意識を持ちたいものです。
 
 具体的には、からだ・こころに関する基礎的知識や健康的な食生活に関する知識を学び、軽度の体調不良に対処できる民間療法的な診断法と治療法、ヨガや体操などのひとりで行える健康増進や能力開発のメソッドなどをいろいろと試してみて、自分の個性と目的に合うオリジナルの健康メニューを徐々に形作っていきます。内容は何であれ、健康管理と健康増進を他人任せにせず、予防と健康増進を軸に病にならない生活スタイルを見出し、能力開発という一貫した目的意識を持って日常の作務に取り組むという姿勢が大切です。
 
 「うわー、なんだか大変そうだな」とお感じになるかもしれませんが、人間以外の動物は、健康管理は自分でやってますから、人間にも本能的にそれをやれる機能が備わっていると考えるのが妥当です。ただ、便利で快適な現代生活では、その能力をあまり使わなくてもとりあえずは生きていけるので、かなりホコリをかぶってしまっていますから、自分のこころ・からだの声に耳を傾けることを習慣づけ、時間をかけて少しずつホコリを落として行く必要があります。
 
 自分の心・体のことを良く知る、健康を増進する、能力を開発するということは、いわゆる「人間力」の向上を意味しますから、人生を豊かにすることにも直結します。自分の場合には、本業である音楽の探求に必要な基礎的能力は、音楽からではなく日常生活の中で培われています。退屈で単純な肉体労働でも、なんらかの能力開発のトレーニングとして取り組めば、退屈ではなくなります。例えば、土をシャベルで掘るという単純作業でも、できるだけ少ないエネルギーを使って体を動かす練習、効率の良い手順を見出す練習、あえて利き側ではない手足を使う練習として取り組めば、無限のチャレンジの余地のある面白い課題になります。結果としては、より繊細な身体のコントロール力、効率の良い呼吸法、筋力と持久力の増強などによって、運動能力の向上とケガをしにくい肉体を得ることができます。 
 
 農業を生活の一部に取り入れると、適度の運動と知的活動を含む農作業に従事することになるので、健康増進と能力開発に役立ち、新鮮で加工度の低い安全性の高い食品を自給できるので、食生活も改善できます。しかも豊かな自然に囲まれたゆとりのある住環境が確保できるので、心身の健康にとっても良い条件がもたらされます。また、自然を相手にしていると、原因と結果の関係は長期的視点でしか見えないことが多く、自然への介入では思い通りにいかないことも多いため、忍耐力と寛容さという徳も培われます。これら田舎の利点を生かして、自らの生活を実験フィールドとし、健康的なライフスタイルを模索するということは、現代社会の抱える健康問題を解決する道を実践研究を通じて見出すという社会的意義もあるのです。実際に、自分は持続可能ファームでの生活から健康関連因子を抽出する研究に取り組んでいて、学会や医学系の研究会にも参加し、新しいライフスタイルの提唱のための準備を進めております。
 
 田舎への移住を、先端医療リソースから離れた悲惨な場所に都落ちするというイメージではなく、自発的な健康管理と健康増進、能力開発を実践するためにより適した環境を求めて移住するというイメージで捉え、田舎のメリットを存分に活用してもらいたいと思います。

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