今回のアメリカ大統領選挙にみるアメリカ人の気質

今回の選挙の特徴は、国を2分するような意見の対立。

そもそも、なんでトランプはそれほど人気があるのか?

下品で乱暴な印象が強烈なトランプ大統領は、日本人の感覚としては、国民の代表としての大統領にあるべき品格を欠いている人物と感じられ、上品で政治家としての節度が感じられるバイデン氏の方がより大統領にふさわしいと思われるが、実際には、今回の選挙で現時点の集計では47%以上の支持を得て、得票数ではバイデン氏と共にアメリカ大統領選挙の記録を塗り替える得票数を得ている。つまり、トランプ氏は、実際に人気がある。

 熱烈なトランプ支持者のメンタリティーは日本人には理解しにくいところはあるかもしれない。以下に、トランプ氏が多くのアメリカ人好かれるポイントをまとめてみた。

1)暴言、失言、事実に基づかない発言、ハッタリ、悪口など、政治家にあるまじき態度。
 言いにくいことをはっきりと言う小気味の良さ。元々、リアリティーショーのホストとして、歯に衣着せぬ物言いが人気だったタレントとしての側面もあるので、暴言や失言自体が売りになっている。暴言で有名だったハマコーさんが人気があったのとちょっと似ているかも。

2)「自分は政治家ではない」というスタンス
 政治家の長たる大統領が、政治家ではないということを豪語するのは、ほとんど能力の欠如を開き直っているような態度ではあるが、「自分は一般のあなたたちと同じである」ということ自体を売りにして、普通政治家だったら言わないような下品な表現や強引な手段を使うことで、むしろ支持者を喜ばしている。

 ただその反面、実際に大統領としての手腕や実績にに関係なく、ただひたすら生理的にトランプ嫌いという負の反応も呼び起こしてしまうため、熱狂的なトランプファンと、熱狂的なアンチトランプを生み出している。このことも、今回の選挙で国を二分するような対立を生んだ要因と考えられる。

3)これまで、白黒はっきりさせてこなかったことをはっきりさせる。

4)やり方や内容はともかく、行ったことをやるない印象。
 無茶苦茶のように見えても、公約として約束したことはやる。イスラエルでのエルサレムの首都認定、自国に不利な貿易協定からの脱退などアメリカファーストの実践、拡張圧力を強める中国への厳しい外交姿勢などなど。中国に対しては、トランプ政権以前から、粗悪な中国製品の席巻、中国の国力拡大に関しては、危機感を抱いているアメリカ人は多かった。ビジネスパートナーとしての関係を重視し、国策として中国リスクをうやむやにしてしまっていたことに対する政治不信もあった。

5)わかりやすいメッセージ。
 ツイッターを多用して、短くて平易な表現でメッセージを出すことで、自ずと多くの関心を惹きつけている。ただし、メッセージをわかりやすくすることで内容は雑になり、事実と反するようなことも言ってしまうことが多いが、それもトランプさんらしいキャラクターの一部として許されてしまうため、ファンを喜ばす有効な手段になっている。ただし、アンチトランプからすると、突っ込みどころは満載なので、諸刃の剣とも言える。

6)逞しくて強いイメージ
 コロナにかかったのにすぐに元気になて出てきたこと、勢力的に国中を飛び回りラリーを行い、しょっちゅうゴルフをしている姿を見せて、強さを感じさせる。アメリカはカウボーイの国なので、強さ、たくましさというのは魅力として捉えられる。

7)オバマ政権の劇的な誕生以前から、一般国民がずっと不満に感じている社会的の構造的な問題をうまく汲み取って、それに厳しく対峙する大統領、一般民衆の味方という立ち位置で登場した。

トランプ大統領は、政治の外の世界から乱入し、偏向した報道機関(フェイクニュース)、超巨大企業のカネの力によって支配されるワシントンの政治家や官僚システム、国家間の付き合いにおいて、国家としての価値観や理念を共有するという視点ではなく、近視眼的な投資によるビジネスチャンスの有無を優先させ、国家全体としての強靭性や繁栄を軽視する姿勢、既得権益を守り自分たちの利益のために政治を行う政治家や官僚、国内での著しい貧富の差と機会の不平等(人種差別問題とも関連)などの諸悪に対決するという構図で登場し支持を得た。
 
 このように、既製の仕組みをぶっ壊すというスタンスで支持を得たトランプ政権だけに、その敵とみなされた勢力とは真っ向から対立する流れは避けられず、それがこの選挙でも如実に現れたと思われる。

 普段から、銃規制や同性愛結婚などに関して、世論が真っ二つに分かれることが多いアメリカ。

 

 大都市生活者はほとんどリベラルで、田舎に行くと保守が圧倒的に強いという特徴がある。アメリカでは、同じ州であっても都市生活者と田舎生活者のライフスタイルの違い、価値観の違い、人生経験の違いが著しく、また州による違いも大きく、人種、出身の文化圏、宗教によってもさらに多くの違いがある。そのため、意見の違いは、彼らの現実に体験している世界の違い、そこから生み出される価値観の違いを反映しているため、議論をしても決して同意できない大きな溝があるように思える。
 
 例えば、現代日本人、特に都市で生活する日本人は、国民が武装をする権利を頑なに主張するアメリカ人の気持ちを理解できないと思う。そこには、アメリカの開拓精神、独立精神、個人主義の側面が反映されている。

 大都市でなく、面積ではアメリカの大部分を占める農業地域や小都市周辺に暮らしていると、野生動物の脅威、警察による犯罪抑止が十分に効かない環境にあるため「自分自身と家族は、自分の手で守る。銃規制には反対。」という保守派が主流となる。その一方で、大都市周辺に生活していると、個人が武装をすることのメリットよりもデメリットの方が大きくなるため、「安全な社会を実現できる仕組みや制度を重視し、銃規制すべし」というリベラル派が主流となる。

 基本、保守派は「俺はお前の邪魔をしない。お前も俺の邪魔をするな」という価値観が根っこにあり、この自由を皆が行使できるための環境を保証するのが政府の仕事という考え方なので、いわゆる小さな政府という方向性を支持する。共同体の観念が深く根付いている日本のような社会ではこのような考え方は理解し難いが、開拓民が文字通り自力で生活を築いてきたアメリカでは、田舎で誰の手も借りずの厳しい自然環境と闘いながら開拓をしてようやく生活を立ち上げたと思ったら、政府が割り込んできて色々と難癖をつけるというような構図もあったため、このような価値観がに強く残っていると考えられる。

 今回の選挙では、ネットで情報をとることのメリットとデメリットもはっきりと顕れたように思う。

 大都市を基盤にする大手メディアがリベラルに傾倒していることにフラストレーションを感じている有権者は多く、その反動としてネットでは保守系のメディアもたくさん出てきている。しかし、左右に極端に傾いた情報、事実かどうか怪しい情報も溢れ、玉石混合で何が真実で何がウソなのか、客観的に判断することは難しい。また、ソーシャルネットワークやネット検索のアルゴリズムのために、自分の傾倒しているイデオロギーに寄った情報と遭遇する機会が多くなるため、ある意味、どんなものでも信じたいものを信じれば、それをを裏付ける情報や共感する仲間を探すことができる。こうなると、そこに偏った情報と空気感の中で自分の見解と意見を熟成させ続けることになるので、それに対立する見解をじっくり検証したり、冷静に論理的な議論から正当な解答を見出すことは難しくなる。その結果、意見の極端に対立する勢力にくっきりと分かれる可能性が大きくなる。

 若い世代に、意見の対立する相手に対し、お互いの立場を尊重しながら冷静に議論をするという辛抱強さが欠けていると感じられるのは、このようなネット空間での世論構築にも一因があるのかもしれない。

 ではこの二つに割れた国論をどうまとめて大統領を決めるのか?

 1860年の南北戦争、キング牧師が活躍した1960年代の公民権運動の時代の世論を二分した対立を見ると、アメリカ人の気質として、真っ向から対立する意見に分かれた場合、日本のように妥協点を見出して談合して中間点を決めるというのではなく、まずは問題意識の高い人々が敵対陣営に分かれてボコボコに殴り合いをして、お互いに傷つきあって、社会全体としても悲惨な状況になってくると、それまで無関心/中立の立場にあった多数派の国民にも問題意識が波及し、世の中が動くというケースが多いようである。

 投票はすでに締め切られて、選挙結果の出ている州もあり、バイデン氏当確としているメディアがほとんである中で、トランプ大統領が敗北宣言をせず、選挙での不正が行われたことを主張し、公正な投票のカウントを要求している。それに対して、日米の主要メディアは「往生際が悪い」「みっともない」という批判をするが、アメリカの大統領選挙の仕組みの中に、投票結果に不服がある場合には、司法によってその正当性を検証するプロセスが正当な解決策として組み込まれていて、票数カウント、選挙人投票の期限も投票日から1ヶ月以上先までの猶予が設けられているのだから、ほぼ半数に近い支持を得た大統領の支持者の多くが投票の正当性に疑問を抱いているのであれば、そのルールの範囲内でしっかりと真実を評価し、司法の場ではっきりと決着をつけた方が良いと思う。

 そこをはっきりとさせないままに政権交代をしてしまうと、アメリカ人の気質からして、そのあとで暴力に訴えた争いが起こることにつながる可能性もあるのではないか。トランプ支持者の多くは、(もちろん極端なトランプ信者もいるが)、何がなんでもトランプでなければイヤだということではなく、正当な選挙の結果でトランプが負けたということであれば、それは受け入れるという姿勢を持っている。不正を検証した場合に、不正が出てくるのはバイデンサイドだけでなく、トランプサイドである場合もあり、三権分立で司法の独立性が維持されているアメリカなので、司法のプロセスを経ることは非常に理にかなった決着の方法にも思える。

 選挙で決着がつかなかったら、議会での投票という具合に、アメリカ的に対立が激化してどうにもこうにも決まらない場合の解決策も数段階準備されているので、これからどこまで行くのかはわからないが、暴力ではなく、制度の中で保守、リベラル共に納得するまでとことんやりあうのが、いかにもアメリカ的で、これがアメリカがアメリカたる所以なのかなと思う。

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