木こり談義

 コロナ騒動以来、音楽の仕事がないので、時々木こりの手伝いをして小銭を稼いでいるので、木こり談義を一つ。

 

 自宅で木こり作業をする目的は、主に朽木や倒木、立ち枯れの木の処理で、切り出した木はストーブ用の薪にします。ストーブの薪の調達に関する一連の作業を並べてみると、以下のようになります。

 

1)木の切り出し:チェーンソーを使って森林で朽木、あるいは立木を切り倒し、人力で動かせる大きさに切る

2)ぶつ切り作業:切り出した木をチェーンソーでマキの長さにぶつ切りにする

3)運び出し:マキの備蓄場所近くまで運ぶ

4)薪割り:太い幹の部分は、斧で割って丁度良いサイズにする

5)保管:家の近くの雨のあたらない場所に保管する

6)現場の枝の片付け:切り出しで散らかった現場で使えそうな枝は着火用の薪として確保し、その他の細かなものは集めておいて後日燃やすか、堆肥の材料として活用する。

 

 どの作業も重労働なので、一人でこれらの作業を一気に終わらせるのは無理です。1日に3−4時間程度ずつ、3日間でだいたい2ヶ月分のマキを準備できます。これで、おそらく150ドル分程度の薪を確保できますから、時給に換算する10ドルちょっと。ジムに行かなくてもハードなトレーニングできて、しかもお金も節約できると考えると、悪くありません。

 

 チェーンソーに慣れるには、ちょっと時間がかかります。エンジンをスタートさせるコツやオイル混合燃料の準備、メンテなどで戸惑うことも多く、初心者の時には、木を切り始める以前にすでに面倒な気分になってしまうこともあります。また、使い方によっては刃が跳ね上がったり、チェーンのパワーに持っていかれそうになったり、チェーンが外れてしまうこともあるので、最初は緊張で体にガチガチに力が入り、数分で握力がなくなるほどに疲れてしまうのですが、忍耐強くチェーンソーと付き合っていくうちに、2−3時間は平気で作業できるようになります。

 

 「チェーンソーを使うのが大変そうだ」ということで、自力での薪調達を諦める方も多いのですが、「大変だ」という先入観を取り去れば、チェーンソーは誰にでも操作できる道具で、アメリカでは女性でもへっちゃらで使う方が大勢いらっしゃいます。田舎生活では必需品ともいえるアイテムで、チェーンソーの使い方をマスターすれば、山での生活に自信が持てます。実際、立ち木が強風で倒れて道路をふさいでしまう場合や、立ち枯れした木が不意に倒れて自動車や家屋を破損するのを予防するために安全な方向に木を切り倒す必要のある場合があるので、チェーンソーが活躍する場面はたくさんあります。

 

 チェーンソーがなかった時代には、日常生活においてもっとたくさん薪が必要だった上に、全てを手作業で行っていたわけですから、相当に大変だったと思います。アメリカでは、その時代の木こり文化も残っていて、斧で丸太を切り倒す速さを競う選手権があります。そこには現役のプロの木こりが登場し、斧一本でとんでもない速さで木を切り倒すのです。技術もさることながら、彼らの半端ない筋肉量に圧倒されます。まるで、北斗の拳に出てくる力自慢の悪役みたいな体格です。

 

 今でこそ、木の切り出しはチェーンソーを使えば普通の筋肉で事足りるし、事実、慣れてしまえばそれほど大変でもありません。しかし、森からの運び出しでは自動車が使えないので、今でも大変です。手押しの荷車か、あるいは足場が悪いところでは少しずつ担いで運び出すしかないので、ここが薪調達の正念場になります。実際、ここには運び出しをされないまま、森に放置されている薪材もたくさんあります。これらは、妻のおじいさんが数年前に切り出したものですが、80代も半ばとなると、森からの運び出しはさすがに無理。40代後半でも、登り斜面での運び出しはキツく、「うへ〜」と感じてしまうほどです。しかし、ここで諦めてしまったら、燃料は確保できません。ここは気合一発、この山を乗り越えるしかありません。

 

 運び出しが終わったら、いよいよ薪割りです。薪割りは、運動好きの方には結構楽しめる作業です。薪割り専用の機械もありますが、家庭で使う程度の量なら、斧を使った手作業で間に合います。しかし、初心者のうちは、時代劇や西部劇のカッコいい薪割りシーンのようには上手くいかないものです。フシのあるもの、曲がったもの、枝分かれのあるものもあるし、直径30〜40センチのものを割る場合には、同じ所を狙って数回にわたって斧を打ち込む必要もあり、割れる筋目の見極めと斧の振り方のテクニックの習得には、なかなか奥深いものがあります。切る対象の特性を見極め、斧の重さに逆らわない程よい脱力を伴う正確な動作により狙ったとこに一気に刃を打ち込む…。そこには、精妙なハープの即興演奏や、一本をねらう柔道にも通じる心技体の修練があります。

 

 そして案外と大切なのが、薪の保管。資源というものは、しかるべき場所にすぐに使える状態で備蓄されていないと意味がありませんから、薪は家屋からほど近い場所に、雨に濡れない状態である程度大きさで分類され整理/保管されている必要があります。崩れないように薪を積むのにも、それなりの根気と体力が必要です。

 

 最後に、現場の片付けも大切です。特に、ここカリフォルニアでは火災が最も恐ろしい天災ですので、敷地内の地面に燃えやすいものが大量に散乱しているのは、いざの時に命取りになりかねません。使えそうな資源はできるだけ薪として確保して、残りは雨季にまとめて燃やしておくのが得策になります。

 

 昔は誰もがやっていた仕事ですが、やってみると大変だし、奥も深い。農業もその他のインフラ整備の仕事もそうですが、生きることの根本に関わるような仕事の場合、どんな仕事にも貴賎はなく、等しくやりがいがありますね。

 

 

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