ソロハープによる完全即興演奏を収録したアルバムを3連作をデジタルリリースいたしました!
Journey Within “Exploration”
Motoshi Kosako : Harp
1. Improvisation, March 29, 2022 (41:52)
2. Improvisation, April 20, 2022 -2 (24:39)
Instrument : CAMAC Atlantide Prestige tuned in A=432Hz
All the pieces are improvised in the moment of recording by Motoshi Kosako
Recorded, mixed, mastered by Motoshi Kosako
Produced in October 2022
All right reserved
Journey Within “Walk About”
Motoshi Kosako : Harp
1 Improvisation, April 20, 2022 -4 (15:35)
2. Improvisation, March 29, 2022-2 (3:04)
3. Improvisation, April 20, 2022 -3 (8:54)
4. Improvisation, March 29, 2022 -1 (2:48)
5. Improvisation, February 10, 2022 (8:54)
6. Improvisation, April 27, 2022 (11:05)
7. Improvisation, June 15, 2022 (7:11)
Instrument : CAMAC Atlantide Prestige tuned in A=432Hz
All the pieces are improvised in the moment of recording by Motoshi Kosako
Recorded, mixed, mastered by Motoshi Kosako
Produced in October 2022
All right reserved
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Journey Within “Quest”
Motoshi Kosako : Harp
1. Improvisation, September 24, 2022 -1 (7:52)
2. Improvisation, August 25, 2022 Lydian (4:52)
3. Improvisation, April 20, 2022 -5 (4:38)
4. Improvisation, August 25, 2022 Dorian (4:37)
5. Improvisation, March 30, 2022 -2 (3:10)
6. Improvisation, August 25, Phrygian (6:06)
7. Improvisation, March 30, 2022 -3 (2:54)
8. Improvisation, August 25, 2022 Mixolydian (6:21)
9. Improvisation, September 24, 2022 -2 (12:52)
Instrument : CAMAC Atlantide Prestige tuned in A=432Hz
All the pieces are improvised in the moment of recording by Motoshi Kosako
Recorded, mixed, mastered by Motoshi Kosako
Produced in October 2022
All right reserved
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<ライナーノーツ>
キース・ジャレットのソロピアノのによる即興アルバム「ケルン・コンサート」を初めて聴いたのは、今からおよそ30年前。その時の衝撃は今でも忘れられません。
「これほど美しく完成度の高い音楽を、即興で演奏できるのか!いったいどうやったらこんなことができるんだ?」
当時、有望な若手ジャズギターリストとしてプロのバンドでも活動をしていましたから、即興演奏は馴染み深いものでした。しかし、ジャズの即興は、既に作曲されている楽曲の枠組みの中で行われる即興です。それに対し、キース・ジャレット氏によるケルン・コンサートでの即興は、それとはまったく別次元のものでした。彼は新しい音楽をその場で作曲して演奏していたのです。
この衝撃的な経験により、ジャレット氏のような即興演奏家になりたいという思いに取り憑かれてしまいました。何はともあれ、まずはジャズという狭い世界に限定されている自分の音楽レパートリーを広げることが必要であると考え、8弦のクラシックギターを購入し、クラシック、バロック、ルネサンス、中世の音楽など、様々な音楽スタイルの演奏を試みると同時に、ルネサンスの対位法、バロックの通奏低音、現代の和声理論、ジャズ理論など思いつく限りの音楽理論も勉強してみました。これらの努力によって、ジャレット氏のような卓越した即興演奏家に要求される知識と技術が身につくことを期待していましたが、結果は全く期待外れでした。確かに、これらの努力によって音楽家としての技量は向上しました。それでも、自分には即興演奏家として何か決定的な要素が欠けていることには、疑う余地がありませんでした。
このような試行錯誤の中、ジャレット氏の伝記とインタビュー記事から、彼がG.I.グルジェフという秘教主義の思想家の影響を強く受けていることを知り、興味本位でグルジェフに関する本を購入して読んでみたところ、思いがけず自分に欠けている<何か>に関するかなり明確な認識を得ることができました。問題は、知識や技術にではなく、<存在>のレベル、つまり自分自身の在り方にあること。そして、音楽家としての目標を達成するためには、自分の<存在>を変えるための内的努力をしなくてはならないということを理解したのです。
当時は、音楽の道での目標を達成するためには何でもやってみる覚悟を持っていましたから、グルジェフの秘教的な道に本気で取り組んでみることを決意し、グルジェフ・ワーク、あるいは「第四の道」と呼ばれる内的な自己修練を実践しているグループに参加しました。それから数年後には、さらに本格的に「第四の道」のワークを続けるために、東京での快適な生活とジャズギターリストとしての活動、東大卒という肩書きのおかげでお声がけいただいていた看護大学教員という非常に魅力的な仕事のチャンスも全て諦め、カリフォルニアに移り住むことを決意しました。即興演奏を極める音楽探究の旅は、予期せずしてスピリチュアルな道へと導かれて行ったのです。
これらの一連の内的、外的な変化の中で、実際のところ音楽が自分にとってどれほど重要なものなのだろうと疑問を抱くようになりました。音楽を心より愛していることには確信がありました。しかし、音楽家であることに関しては、何かしっくりとこない違和感を感じていたのです。もしかしたら、自分はもうギターを弾きたくないのではないだろうか…?
実のところ、それまで音楽家であることとギターリストであることを分けて考えたことはありませんでした。これら二つのことは、常に同義だったのです。しかし、音楽に関する苦しみや悩みの大部分が、それまで自分がギターに投資してきた時間と努力への執着に起因すると気づいたことは、大きな転機となりました。ギターリストとしての成功体験に伴い形成された虚栄心やプライド、ギターリスト特有のメンタリティーによって作られた音楽的な視野による束縛など、多くのネガティブな要素をギターと共に抱え込んでいたことをはっきりと認識したのです。
「自分は音楽家でありたいけれども、このままギターリストであり続けることはできない。」それが答えでした。しかしこのことは、それまでの音楽との不健全な関係性を精算するために、ギターをやめることを意味します。しかし、ギターをやめて、一体何をすればいいのか?そんな時に新しい楽器の候補として登場したのがハープです。
このとき、既に28歳。しかも、ハープレッスンを受けるだけの経済的余裕もありませんでした。しかし、ジャレット氏のような即興演奏家になりたいという願望は色褪せておらず、ほとんど無謀なチャレンジと自覚しつつも、新たに手にとった未知の楽器ハープとともに、その目標に向かって歩み出すことを決意しました。
ハーピストとしての最初の7年間は、まず一人前のクラシック・ハーピストになることに集中し、それまでの全ての音楽の知識とグルジェフ・ワークを通じて体得した知恵を頼りに、独学しました。その際、ハープ転向の覚悟の証として、2度とギターに触れないと心に決め、さらに、クラシック音楽の習得に集中するために、その時期はクラシック以外の音楽を演奏しないばかりでなく、それらを聴くことすら自粛していました。練習時間は、週に40時間から60時間。このような常軌を逸した努力の末、6年後にストックトン・シンフォニーというプロのオーケストラの主席ハーピストのオーディションに合格し、フルタイムのプロのクラシック・ハープ奏者として、当時の婚約者と彼女の三人の子供たちを養うに十分な収入を得ることができるようになりました。こうなってしまうと、人生悪くない。いや、それどころか、即興演奏の道を極めるという目標をうっかり忘れてしまうほどに、クラシック演奏家としての成果に満足していました。
しかし、間もなくクラシック・ハーピストとしての仕事が日々の退屈なルーティーンと感じられるようなり、またしても音楽家として行き詰まってしまいました。こんなことをやっている場合ではない。自分がハーピストになったそもそもの理由は、即興演奏を極めるためじゃないか!
ということで、再び劇的なキャリア変更を余儀なくされ、クラシックハーピストからジャズハーピストへと転向することになります。この時は、過去のジャズギターリストとしての経験をクラシックハーピストとしての技術と融合させることで、比較的短期間のうちに国際コンクールのジャズハープ部門で準優勝という成果を得ることができました。この直後、それまで活動していた室内楽団、オーケストラ、コーラスグループなどにクラシックの仕事から引退する旨を正式に伝えました。またこれを機に、婚約者だったテラを正式に妻として迎え入れ、三人の子供たちの父親になりました。
ジャズハーピストとしての船出は、いきなりリーマンショックという歴史的な経済危機に見舞われるという前途多難なもので、まさにこれまでの人生の中で最も苦しい時期を経験することになります。自分の決断が間違っていたのではないかという疑念にさいなまれ、うつ状態となり、ハープに対する興味すら失いかけたほどでした。しかしこの厳しい状況が、人生の目的を沈思黙考するために必要な孤独な時間をたっぷりと与えてくれました。その結果、新しい家族の存在も励みとなり、うつ状態から立ち直り、己の才能を信じてジャズハーピストとしての道を全うする覚悟を新たなものとすることができたのです。
その後の数年間は非常にエキサイティンなものとなりました。まず、オリジナル曲を次々と作曲し、世界トップクラスのリード奏者であるポール・マキャンドレス氏をはじめとする一流のジャズミュージシャンをプロジェクトに引き込み、演奏活動を拡大することに成功しました。ポールは、学生時代から大ファンだった憧れの音楽家です。そんな彼が活動を共にする同僚として実力を認めてくれただけでなく、CD制作にも喜んで参加してくれたことは、まさに信じがたいほどの素晴らしい出来事でした。
このように、ジャズハーピストとしての活動は順調に拡大し、ハープ業界でも注目されるようになり、アメリカン・ハープ・ソサエティ、ワールド・ハープ・コングレス、リオでジャネイロ・ハープフェスティバルなど数々の国際的な舞台でも演奏を依頼され、ジャズハーピストとしての地位は確かなものになっていきました。しかし、完全に自由な即興演奏を公の場で自信を持って演奏できるようになるには、ジャズハープに転向してからさらに10年ほどの月日が必要でした。2016年頃からコンサートで即興演奏を披露するようになりますが、完全即興はコンサートの一部にすぎず、全てを即興で行うというところまでは手が届いていませんでした。
2019年には、世界トップクラスのベーシスト、マイケル・マンリング氏とパーカッション奏者、クリス・ガルシア氏を起用して新たなバンド、KoMaGa Trioを結成し、これからいよいよ本格始動というところで、Covid-19のパンデミック。それからの2年間は、全てのパフォーマンスの機会が失われてしまいました。しかしこの活動休止のおかげで、じっくりとソロの即興演奏に磨きをかける時間を得ることができました。
即興を深く追求する過程で、ハープの音色に対する違和感をこれまでになく強く感じ始めるようにもなりました。この違和感は、作曲やテクニックの未熟さから来るものではなく、何か別のことに起因するものでした。考えつく限りの様々な要因を探っても答えは見つからず、最後に残った選択肢はチューニングを変えるということでした。正直なところ、スタンダードなA=440Hz以外のチューニングを採用することには、抵抗感を持っていました。変則チューニングをすると、A=440Hzでチューニングされるマリンバなどの打楽器やピアノなどの鍵盤楽器、ほとんどの管楽器や弦楽器との合奏が不可能になるからです。しかし、このコロナのロックダウンでは、どのみち誰とも演奏できない状況ですから、そんなことを気にする必要はないと割り切って、チューニングをA=440Hz から A=432Hzに変更してみました。なんと、これが大正解だったのです。ハープの音が、これまでにないほど心と体に染み渡る感覚。これこそが求めていたものだったのです!
2022年2月、ついに完全な即興演奏のアルバム制作に向けて収録を始めました。即興演奏は、何気なく行えるものではありません。このアルバムでは最長40分以上にも及ぶ即興演奏が含まれています。そのような大規模な即興演奏においては、瞬間瞬間に今の自分にとってベストなものを創出し続けられるように、自分自身の在り方を注意深く準備する必要があります。その上で、演奏の瞬間に起こることは、それが良いものであれ悪いものであれ、全てを自己責任として受け入れなくてはなりません。このプロセスは、楽しい小旅行というよりは、多大の努力と危険を伴う長旅のようなものです。しかし、その苦労ゆえにより深遠な真理に迫る経験にもつながるのです。このようにして、30年の月日を経てようやく自分の「ケルン・コンサート」を制作する準備ができました。
この “Journey Within” 『内なる旅路』と題された3枚のアルバムシリーズは、2022年の内なる音楽の旅行記です。
“Exploration” では、長い即興演奏を2曲お聴きいただけます。これらの曲は、音楽によって内なるスピリチュアルな旅をするという意図を持って演奏いたしました。
“Walk About”は、特別な意図を持たずに即興演奏された曲を集めたものです。アボリジニーの伝統で、若い男子が大人になる過程で集落を離れてあてもなく旅をする“Walk About”のように、自分自身の精神世界を散策した結果生まれた音楽をお聴きいただけます。
“Quest”は、内省的な心理的状態を生み出し、より深い自己知に至ることを促すような内的環境を作り出す意図で演奏された即興で構成されています。
これらの音楽は、必ずしも聴き手の皆さんを気持ちよくさせたり楽しませるものではない可能性があるということをお断りしておく必要があります。むしろ、居心地の悪さや不安感を伴うある種の強烈な心理状態を経験されるかもしれません。これは、そもそもこれらの音楽を録音するにあたって、エンターテイメントという目的を持っていなかったからに他なりません。この内なる音楽の旅においては、自分自身への様々な挑戦が強いられ、喜びと苦悩が共に経験されました。それゆえに、一層実り多き旅となったと感じております。
このアルバムを通じて、2022年の心の旅にお付き合いいただければ幸いです。